ここでは、自治医科大学の取り組みを、地域医療の観点から見ていきましょう。
地域医療を支える自治医科大学の取り組み
これ自体は秋田県が行っている取り組みではないのですが、へき地・医療過疎地の医療を語る上で外せないのが自治医科大学の存在。
一応、自治医科大学は私立大ということになっていますが、半ば公立のような大学と考えたほうが分かりやすいでしょう。設置したのは旧自治省(現在の総務省)であり、現在も総務省の事務次官経験者が学長をやっています。
その目的に協力することを条件として、学費を実質無料にしてくれるという大学です。
医学部はそれこそ目玉が飛び出るような高額の学費が必要と言われていますが、自治医科大学であれば非常に低い経済的負担で医学部に進学することができます。そのため、学部ごとの学費が統一されている国立大と同様、経済的には余裕がないけれど学力はピカイチという学生から高い人気を誇っているのです。
医学部志望の高校生で、もし真剣に地域医療に向き合う気持ちがあるなら、自治医科大学への進学を視野に入れるのも良いでしょう。
どうして自治医科大学の学費は実質無料なの?
厳密に言うと無料になるわけではありません。学費は初年度が660万円となっており、6年間合計すると2200万円くらいになります。
しかし、この学費は在学中に貸与されるため、実際に支払う必要はありません。
これによって、実質的に学費が免除されるというわけですね。ちなみに9年のうち4年半はへき地医療に従事することになるので一定の覚悟が必要。
ですから、義務を果たさない場合には莫大な負債を抱えることになるという点に注意してください。金額の規模は大違いですが、最近よくある“インターネット工事費実質無料+家電製品をプレゼント!ただし2年間は契約を続けないと違約金をもらいます”という契約と似たところがあります。
ちなみに卒業者の95%がきっちり義務を果たしていますが、年数経過後も地域に残って働く人はそれほど多くないのが現状。一定のレベルで期待に応えてはいるものの、完璧とはいえないといったところでしょうか。
自治医科大学のプライマリ・ケア教育
地域医療充実のためには統合医・家庭医と呼ばれる全人的な1次医療(プライマリ・ケア)に携わる医師を育て上げることが必要。医療へき地の診療所・公立病院がすべきことは、その場で診療できる患者を診つつ、2次医療を行う中核病院へ移す患者の振り分けを行うことだからです。
そのため自治医科大学では、1年次から早期体験実習として患者への付き添い実習や、地域医療の見学実習が行われているのが特徴です。さらに2年次では保健福祉施設で4日間にわたって働きながら学ぶ臨床実習も行われます。
要するに、原則として専門的研究より臨床訓練を重視するカリキュラムを取っているわけですね。これはアメリカの家庭医志望者に対して実施される研修と類似したもの。5年次からは、実際にへき地医療の現場へ行って実習を積んでいくことになります。
こうしたプライマリ・ケア重視のカリキュラムを採用しているのは、日本では自治医科大学くらいのもの。地域の1次医療を担う人材を育てるには最適の教育内容といえます。
自治医科大学の難易度はどれくらい?
偏差値は非常に高く、かなりの狭き門になります。
河合塾が発表している入試難易度ランキングでは、偏差値67.5となっており、慶応義塾大や東京慈恵会医大に次ぐクラスです。しかし、特殊な入試方法を採用しているため、実のところ予備校の偏差値ランキングはあまりあてになりません。
実は、各都道府県それぞれに2~3人という定員が設けられており、出身都道府県によって難易度は大きく上下します。地方の出身者であれば受験者が数十人しかいないことも多く、私立大医学部上位クラスの実力で合格できることがある一方、首都圏などの過密地域ではほとんど凶悪ともいえるレベル。
受験科目は3科目ですが、偏差値が足りているからといって簡単に合格できるとは思わないほうが無難です。
また、医学部は入学後に全寮制となるため、在学中もそれほど自由な生活というわけにはいかないでしょう。地域医療を支えるんだという確かな決意がないと、ちょっと辛いかもしれません。
ちなみに看護学部のほうは都道府県の縛りがなく、一般的な入試方法を採用しています。偏差値は50台後半くらいのレベルで推移。その代わり、看護学部については学費が実質無料になるという扱いがありませんので、その点はくれぐれも注意してください。
もし「地域医療を再生するために9年を捧げても構わない!」という頼もしい高校生がいらっしゃれば、自治医科大学への進学を検討して欲しいと思います。